夜間中学の1日の始まりを告げるチャイムが鳴るのは、午後5時半だ。
すっかり日も暮れた師走、ダウンジャケットにリュックを背負った女性が少し遅れて教室に滑り込んだ。ネパール出身のクンワル・ラクシミ・バスネットさん(27)だ。
大阪市立天王寺中学校の片隅にある夜間学級の教室。昨年12月初旬、ラクシミさんを含む3人の外国人女性が手元のプリントに平仮名でメモをとりながら、先生の話に耳を傾けていた。
ここは来日して間もない生徒らが対象の教室だ。メインとなる日本語のほかに、音楽や家庭科などを毎日4時間勉強する。
日本語の授業。先生がラクシミさんを指して大きな声で尋ねた。
「子どものとき、よく何をしましたか?」
ラクシミさんは少し考え、ゆっくりと確かめるようにこう答えた。「山に、のぼり、ました。木に、のぼり、ました」
先生が笑顔でうなずくと、緊張気味だったラクシミさんの表情がほころんだ。
商品の場所を尋ねられず「悔しい」
ネパールの首都カトマンズから西へ約340キロ。山に囲まれたグルミ郡で7人きょうだいの5番目として生まれた。
自然豊かな環境で伸び伸びと育ったが、小学校に入って間もなく、生活が一変した。
銀行員の父親が職を失い、収入が途絶えた。家族は農業で生計をたてることになり、ラクシミさんも毎日、水やりや草むしりを手伝った。収穫したトマトやキャベツを都市部に運んでは売った。8歳で仕事漬けだった。
小学校は山の上にあった。徒歩で1時間かかる。次第に足が遠のき、週3日は休むようになった。「歴史の勉強が好きだった。学校に行けなくて、寂しかったです」
中学校には一度も行かなかった。
2019年4月、日本で働く夫と一緒に暮らすため来日した。その直後から、弁当工場で働き始めた。職場と家を往復する毎日。夫のナラヤンさん(27)は「ラクシミちゃんは楽しそうじゃなかった」と振り返る。
子どもを出産したばかりのラクシミさん。夜間中学に通い始めたのは、ある決意からでした。
日本語がうまく話せなかった…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル